【本】『イスラエルとユダヤ人 考察ノート』佐藤 優
こんにちは! 星野陽子です(自己紹介)。
『イスラエルとユダヤ人 考察ノート』は、作家・元外交官主任分析官の佐藤優氏が、イスラエルとユダヤ人から学んだ事柄について書いた論文とエッセイをまとめられた本です。
本には、ロシアとイスラエルの考察ノート、日本とイスラエルの考察ノート、イラン、シリア、北朝鮮の考察ノートなどが書かれていて、佐藤氏の情報量に圧倒されます。情報の取り方、分析や予測の仕方など、とても勉強になります。
元外交官で、日本の国益を深く考えられていることを知って、尊敬の気持ちを抱きました。
2009年の原稿には、イスラエル支持は日本の国益に資すると書かれています。
第1は、総論。日本と共通の価値観をもつ国家であるからです。
第2は、日本のインテリジェンス機能を強化するためにイスラエルと提携することが日本の国益に適(かな)うからだ。特にモサド(イスラエル諜報特務庁)の人材養成術や分析法は秀逸なので、その成果をぜひとも日本の国益を増進するために用いるべきだ。
第3は、ロシアとの北方領土交渉との絡みだ。イスラエルの人口は約900万人であるが、その内、ユダヤ人は約670万人だ。その内、累計約100万人が1980年代以降、ソ連からイスラエルに帰還したユダヤ人だ。この人々の中に、エリツィン大統領本人、家族、側近と良好な人脈をもっているインテリジェンス工作のプロが多数いる。また、イスラエルの外務省、モサド、アマン(軍情報部)、ナティーブ(ソ連・東欧からユダヤ人を出国させるための秘密組織)には、優れたロシア情勢分析家がいる。イスラエルとの関係を強化して、正確なロシア情報を入手し、適切なロビー活動を大統領側近に対して行えば、北方領土交渉で日本にとって有利な状況を作り出すことができる。
第3の北方領土交渉は、エリツィンが大統領だったときにうまくやっていれば、もしかしたら……と悔やまれます。
佐藤氏は2002年に逮捕されました。2000年4月にイスラエルのテルアビブ大学が主催した国際学会に日本の大学教授らを派遣したときの費用を、外務省関係の団体「支援委員会」から支出したことが背任に問われたのです。
学会の後、ゴラン高原とマサダの要塞を視察したのですが、その費用はテルアビブ大学が負担するという「招待」によるものでした。しかし、検察は、それは「遊び」だという見解を示したそうです。
私は「遊び」という検察の見解に疑問を抱きました。ユダヤ人にとって、マサダは特別な場所です。ユダヤ人を理解して欲しいと思えば、必ず訪れて欲しいというようなところなのです。私も最初にイスラエルを訪れたとき、当時はイスラエル人と結婚していましたが、元夫に「ユダヤ人を理解するためには絶対に行って欲しい所」としてマサダに連れていかれました。マサダはローマ軍から逃れた約1000人のユダヤ人が奴隷になるぐらいだったら死んだ方がいいと、集団自決した場所です。ユダヤ人は、その悲劇を忘れずに二度とイスラエルの土地を奪われないようしよう、という想いを強く持っています。「遊びに行く」という場所ではないかと思います。
私が「佐藤氏はすごい」と思ったことのひとつは、極秘の「ロシア情報分析チーム」(佐藤グループ)というインテリジェンスに従事するチームがイスラエルに関心をもった理由です。それはロシアからの移民の情報が貴重だからです。
ロシアでは伝統的に大学、科学アカデミーなどの学者、ジャーナリスト、作家にはユダヤ人が多かったが、ソ連崩壊後は経済界、政界にもユダヤ人が多く進出した。これらのユダヤ人とイスラエルの「新移民」は緊密な関係を持っている。ロシアのビジネスマン、政治家が、モスクワでは人目があるので、機微にふれる話はテルアビブに来て行うこともめずらしくない。そのため、情報専門家の間では、イスラエルはロシア情報を得るのに絶好の場なのである。
佐藤氏はイスラエルの政府や研究機関との関係を深め、そこから得た情報や分析は、日本の北方領土外交に有益に活用されたとのこと。
私は旅行者として街の様子を見た時に、ロシアからの「帰還者」が多いという印象をうけました。イスラエルの建国(1948年)前から、ロシアからのユダヤ人がパレスチナの土地を買って移住しています。そして「キブツ」という共産主義の村のようなものを作って、農業をしたり、製品を作ったりしています。義理の父が持っていたビルの一階にロシア人向けスーパーが入っていて、そのスーパーの運営者と話をしましたが、そのお店の周りには、キブツに属していないロシア人がたくさん住んでいて、ロシア人地区のようになっているとのことでした。ロシアでこそこそ情報収集するより、イスラエルで情報収集した方が容易そうです。
キリスト教の知識に乏しい私があまり理解できなかったのは、キリスト教とイスラエルの章です。佐藤氏はクリスチャンであり、同志社大学大学院神学研究科で神学研究をされています。クリスチャンの方にとっても、この本は学ぶところが多いかと思います。